コンサルタントの秘伝帖 「すぐできる、ずっと効く」 第10回
「あなたのチーム、ただの『ヒトの集まり』になってませんか?」
コンサルタントの秘伝帖
「すぐできる、ずっと効く」
第10回
「あなたのチーム、
ただの『ヒトの集まり』
なってませんか?」
 
ケンブリッジでは、それまで一緒に仕事したことのないコンサルタント同士が、いきなりチームを組んでプロジェクトに入ることが多々あります。プロジェクトの途中でチームメンバーが増えることもあります。そんな中でも、ケンブリッジのチームは結成後すぐ、まるでこれまで何年も一緒にやってきたチームのようにプロジェクトを進めることができます。チームをクイックにパフォームさせる仕掛けはいくつもありますが、今回はその中でも最も重要な、チームの「始め方」についてお伝えします。うまくチームワークが発揮できず、ただの「ヒトの集まり」になってしまっている、とお悩みの方の参考になれば幸いです。
 
ケンブリッジでは、新しいチームを結成するときに、1時間程度の「ノーミング・セッション」と呼ばれる会議を実施します。「ノーミング-norming-」とは「統一・規範化」という意味で、「タックマン・モデル」と呼ばれるチームの成長プロセスにおける「ノーミング・ステージ」に由来します。知らない者同士が、プロジェクトの方向性を理解し、互いの価値観に納得し、相互補完的な役割分担を決めること。これがノーミング・セッションの目的です。
 
ケンブリッジのノーミング・セッションは、アジェンダが決まっています。

1. プロジェクト概要の共有

プロジェクトの責任者が、プロジェクトのゴール、進め方、作成ドキュメント、アプローチ、スケジュール、各メンバーが担うべき役割を説明します。なぜプロジェクトを始めるに至ったのか、どのように進めていくのか、を共有することで、プロジェクトの意義やスピード感を理解します。
 
2. メンバーの決意表明
 
それぞれのメンバーが、自分が果たすべき役割や、このチームでどのような成長をしたいかについて全員に向けて発表します。すでに責任者から役割を託されておりそれを了解している状態ですが、改めて自分の言葉で役割を表明することが大事です。言い直すことにより、自らの役割の理解が責任者や他のメンバーとずれていないかを確認できますし、コミットメントの意識が高まるからです。
さらに各メンバーは「どう成長したいか」も話します。託された役割の中で「どう成長したいか」を意識することで、困難なプロジェクトを日々こなしていく中に「自分にとってのチャレンジと学び」を見出すことができるのです。
 
3. 期待値の交換
 
ここが最も特徴的なアジェンダです。例えば、全く初めての役割を託されたAさんが、以前のプロジェクトでその役割を担ったメンバーのBさんに「私は今回この役割は初めてで不安なので、Bさんの経験からのアドバイスを期待したいです」と伝えます。役割が決まり決意を表明すると「自分にできるだろうか」と不安が湧いてくるものです。それを素直に表明すればいいことになっています。
誰がどんな不安を抱えているのか、誰が誰のサポートを必要としているのか、をチーム全体で共有することで、お互いに助け合い、相互補完的にパフォームするチームを作るきっかけになるのです。
期待値には、サポートの依頼だけでなく「こういう仕事をしてほしい」というものもあります。先ほどの例でいえば、責任者が「AさんとBさんは、1日1回、30分でいいので相談タイムを設けてください。Aさんがやりきれなさそう、と感じたら、Bさんから私に早期に報告してください」と伝えたりするのも、このアジェンダで行います。
 
4. サブロールの決定
 
サブロールとは、プロジェクトのアプローチに沿った役割とは別に設定されるものです。例えば、作成ドキュメントの品質チェック、お客様から受領した資料管理、チームのITインフラ担当などのサブロールがあります。これらはお客様に直接付加価値を提供する役割ではありませんが、プロジェクトにはなくてはならないものです。必要なタイミングになってから気の利く人が実施するようなやり方では、繁忙期に不満のもとになりますし、そもそも担当がつかず立ち行かなくなる事態もあり得ます。
サブロールを事前に決めておけば、繁忙期だろうと「自分の役割である」と気持ちよくその役割を果たせますし、責任の所在が明確だからこそ、その人が忙しい時には誰かがサポートできるのです。
またサブロールは比較的ルーティンワークですから、経験の少ないメンバーにとってはリーダーシップとオーナーシップを経験できるよい機会にもなります。例えば作成ドキュメントの品質チェックであれば、きちんと作成ドキュメントの納品期限を決め、品質チェックのプロセスを設定して、先輩コンサルタントだろうと、きちんと期限内に作業を終わらせるようにマネージしていくことが求められます。
 
以上がノーミング・セッションのアジェンダです。
 
大切なのは、チームはストーミングの状態を通過しないとノーミングの状態にはならない、ということです。各メンバーが自らの役割を深く理解し、お互いの期待値を了解しあうところまで至っていないのであれば、チームはまだストーミングの状態です。ノーミング・セッションを丁寧に行い、チームとしてパフォームする状態を目指しましょう。