コンサルタントの秘伝帖 「すぐできる、ずっと効く」 第14回
「成果さえ出せば相手を満足させられる、という幻想」

コンサルタントの秘伝帖
「すぐできる、ずっと効く」
第14回
成果さえ出せば相手を
満足させられる、という幻想
  
 
「強いチームを維持し続けるためのコツ」シリーズ、第4回のテーマは「期待値マネジメント」です。
 
自分にはまだちょっと難しいかもしれない仕事を「期待してるよ」と初めて任された時のことを覚えていますか?
お客様にこの質問をすると、多くの人が「よし、頑張ろう、完璧に成果を出してみせるぞ」と意気揚々とその仕事に取り組んだ、とおっしゃいます。しかし中には、せっかくの成果が依頼者のイメージとすりあわず「君にはまだ早かったか。期待してたんだけどね」と言われた方も。では、いったいどうすれば相手の期待どおりの成果を仕上げ、相手を満足させることができたのでしょうか?
 

1. 成果の価値は期待値で決まる

 
ケンブリッジには、お客様がケンブリッジに期待していることを確認したり、プロジェクトメンバー同士で期待することを確認しあったりする習慣があります。これを「期待値の確認」と呼んでいます。期待値の確認は、強いチームを維持し続けるのに極めて重要です。具体的には、以下を確認します。
 
 ・相手が自分に、どんな成果を、いつまでに出すように求めているか
 ・成果だけではなく、そこへ行きつくまでの過程で、どのような振る舞いを期待しているか
 
なぜ、これらを確認する必要があるのか?
それは、出した成果が例え同じであっても、相手の期待値が高いか低いかによって、相手の満足度が変わってしまうからです。
 
飲食店がよい例です。
ショーケースやメニューの写真と提供された実物を見比べて、
 
 ・写真より実物のほうが見栄えや盛りがいい → 期待値を超えて大満足
 ・写真のほうが実物より見栄えや盛りがいい → 期待値を満たせない
 
となるのがお分かりでしょうか。店側は同じ料理を提供しています。しかし注文時の期待値を満たせるか満たせないかで「また来よう」「もう二度と来ない」のいずれかに振れてしまうのです。
あるいは、友人と高級なフレンチレストランを訪れたとします。食事が出てくるまでの間、談笑を妨げるようにやたらワインやチーズを勧められたり、周囲が居酒屋並みにうるさかったりすると、興ざめになってしまいせっかくの料理も台無しになってしまいます。「高級なフレンチレストランとはこうあるべき」という顧客の期待値を、店側が満たせなかった、ということです。
 
つまり、何かに満足するということは「あらかじめ抱いていた期待を、相手の成果が超えたかどうか」で決まるものなのです。料理の場合はあらかじめ提供するものが原則決まっていますが、ビジネスにおいては必ずしもそうではありません。求められる成果がケースバイケースで変わっていきますから、なおのこと、期待値をちゃんと確認することでしか、それを超える成果を上げることはできないのです。
 
2. 期待値は「常に」確認すべし
 
 
期待値を一度確認するだけでは不十分です。なぜなら期待値はすぐに変わってしまうからです。
チームの状況は刻々と変わりますし、状況が変われば物事の重要性も変わります。それに応じてやるべきことの優先順位も変わりますから、周囲に期待することも変わってゆきます。だから期待値は、常に確認すべきです。
 
例えば、
「先日、1週間後にここまでやろう、という話でしたが」
「あ、それ、優先順位が変わったんで、そこまでやらなくていいよ。代わりに残った時間でこれをやってほしい」
といった具合に、当初より期待値が下がるケースがあります。
 
逆に
「これ、1週間後でいいんですよね」
「いや、急に必要になった。2日後までになんとかならないか」
「さすがに全部を2日でやるのは・・・。例えば、重要な部分だけはきっちり仕上げ、他はサマリーだけでどうでしょう」
「よし、それでいこう」
と、急に上がってしまった期待値を実行可能なレベルまで調整することもあります。
 
特にチームの状況がイマイチな時は、とにかく手を動かすことに必死になり、期待値の確認が疎かになりがちです。そしてチームの雰囲気が気まずくなりコミュニケーションが少なくなります。そうすると気持ち的に辛くなるので、状況が一段とイマイチになっていく、という悪循環になります。この悪循環を断ち切るには、無理にでも定期的にチーム内で期待値の確認をする機会を設ける必要があります。

「期待値変わってしまうあるある」でもうひとつ代表的なものに「役員報告」があげられます。
 
「では1年後に成果を報告します」「任せた。よろしく頼むよ」と約束した役員に、約束通り1年後に成果を報告すると「なんだ、そこまでしかできてないのか。遅すぎる」と叱責される。残念ながら、よく聞くエピソードです。
これは期待値の高止まりが原因です。当初「1年後に持ってきてくれればいいよ」程度の期待値だったはずが、役員は実務に直接関わるわけではないので、成果が出ない間はずっと待つことになります。そうするといつの間にか「時間をかけているんだから、さぞいい成果が出てくるに違いない」と期待値が上がっていきます。あるいは「さっさとやってしまえばいいのに、何にそんなに時間をかけているのだろう」という苛立ちから「さっさと成果を出せて当然」となってしまいます。
 
これを防ぐためには、
 
 ・ある程度頻繁に報告する。1年間のプロジェクトなら、1~2ヶ月に1回程度を目安にする。
 ・芳しくない情報を避けない。対策をセットで話す。
 ・役員層だけが解決できること(権限、人材、納期、部門調整)を中心に話す。
 
を粛々と実行するしかありません。これらにより、高止まりしそうになる期待値を調整することができます。経験的に「順調なら、そんなに頻繁に報告に来なくていいよ」と言われるくらいがちょうどよいでしょう。
 
 
期待を確認する。「常に」確認する。その中で求められている期待値を把握するだけでなく、期待値が高すぎたり不適切だったら調整する。これら一連の活動を指して、ケンブリッジでは「期待値マネジメント」と呼んでいます。