コンサルタントの秘伝帖 「業務変革の王道メソッド」 第6回
「『理由ある抵抗』と真摯に向き合え」
コンサルタントの秘伝帖
「業務変革の王道メソッド」
第6回
「『理由ある抵抗』と真摯に向き合え」


 
失敗した変革プロジェクトの関係者が必ずと言っていいほど口にするのが「社内の抵抗にあいまして・・・」です。抵抗は「態勢の質」を著しく低下させます。「態勢の質」とは、言い換えれば、プロジェクトに関わる様々な関係者の熱量です。改善意識や危機意識を共有し、全員でプロジェクトのゴールを目指す状態を維持すれば、態勢の質は高まるのですが、抵抗はそこに冷や水をかけます。
抵抗にあい、態勢の質が低いままプロジェクトを進めても、関係者同士で熱のこもった議論はできません。そんな状態では、これまでメルマガで触れてきた、優れたコンセプトやロジカルな分析、クールな施策などを出せるわけがありません。プロジェクトは、常に態勢の質を高め続けなければならないのです。

そこで、今回から数回にわたりお届けするのは「抵抗との向き合い方」です。抵抗はつぶすのではなく、向き合うことが大切です。その理由とコツをお伝えしていきます。
 
 
1. そもそも「抵抗」とはなにか
 
もし、自分が今所有しているものに特に困っていない場合、いきなり「それを手放せ」と言われたら、恐らく「いやだな」「手放したくないな」と思うのではないでしょうか。「手放したほうが、良いことがたくさんありますよ」と言われても「はい、そうですか」とすんなり手放しがたい。これがいわゆる「抵抗」です。
 
行動経済学では、こういう心理傾向を「現状維持バイアス」と呼びます。未知のものや未体験のものを受け入れるくらいなら、現状のままでいい。他人から見れば「バイアス(偏見)がかかってる」のですが、当の本人は「新しいことにチャレンジして得られる利益より、被る可能性のある損失のほうが大きい」と感じているのです。
つまるところ、抵抗とは、人間誰しもが持つ心理作用であり、生理現象なのです。何かを変えたいときには必ず抵抗にあうのですから、感情的になったり、力づくで抵抗を排除しようとしたりしてもしょうがない、ということがお分かりいただけるでしょうか。
 
 
 
 
2. 抵抗する側にも理由と正義がある
 
抵抗は必ず起こるとはいえ、変革をやめるわけにはいきません。
であれば、抵抗している人に、もうちょっと冷静に話を聞いてみましょう。話の聞き方は「会議の参加者をリスペクトせよ」「納得感のある合意形成、できてますか?」をご参考ください。そうすると、抵抗の奥底には、その人なりの理由や正義が潜んでいることがわかります。
例えば、売上が右肩上がりのメーカーで「増えすぎた商品ラインナップを整理して、製造コストを低減していこう」という変革プロジェクトを立ち上げたとします。しかし営業部から猛反対にあいました。売上トップの営業担当者に話を聞くと「商品のバラエティが顧客を惹きつけてきたから今があるのだ」とのこと。実際に売上は伸びてきたのですから、その担当者の話は筋が通っています。
あるいは、とある部門で、これまで属人化していた業務をマニュアル化して誰でもできるようにしようとします。部門の責任者にそのことを話すと「今でさえ業務は手一杯なのに、これ以上部下に負荷をかけるわけにはいかない」と断られました。彼は部下を守ろうと抵抗しています。
変革を推進する立場にいると「推進する側が正義であり、抵抗する側が悪」と捉えてしまいがちですが、抵抗する側には抵抗する側の理由や正義があることがお判りでしょうか。
 
 
従ってケンブリッジは、抵抗と真摯に向き合うべきと考えます。できるならば、抵抗の芽が出るか出ないか、ぐらいのタイミングで、お互いの想いをすり合わせて納得感のある落としどころを見つけられれば、強固な抵抗へと発展しなさそうです。次回からは、プロジェクトの進み具合に応じて、発生する抵抗のパターンや見つけ方、向き合い方を具体的にお伝えしていきます。待ちきれない方は、弊社書籍『抵抗勢力との向き合い方』や、本書をテーマにしたオンラインセミナーの録画配信もあります(タイミングによっては受付を中止していることがありますのでご注意ください)。